なぜ同じ年収でも、手取りに差が出るのか?
医師として働いていると、どこかのタイミングで大学病院で勤務する経験がある方が多いでしょう。
大学病院と聞くと、「給与が安い」といったイメージを持つ方もいるかもしれません。
確かに、医師は一般に大学病院の給与は民間病院に比べて低めに設定されていることが多いのは事実です。そのため、日々の生活や将来の資産形成などのために、非常勤バイトなどで収入を補うケースが多くなります。
しかし実は、この“給与が低い”という特徴が社会保険料の面で節税的に有利に働くことがあるのをご存じでしょうか?
今回は、同じ年収1,500万円でも「大学病院+非常勤バイト」と「民間病院一本」のケースで、手取り額にどれほどの差が出るのかをわかりやすくシミュレーションしていきます。
医師の平均年収と「手取り」の話
厚生労働省や民間調査などによると、勤務医の平均年収はおよそ1,500万円前後とされています。
しかし当然ながら、「年収=手取り」ではありません。
実際には、働き方や給与の内訳によって、同じ年収でも手取り額に大きな差が生まれます。
それでは、さっそく大学勤務+非常勤バイトと民間常勤、それぞれの場合で手取りがどう変わるのかをシミュレーションしてみましょう。
ケース比較:大学+バイト vs 民間一本 | 年収1,500万円でどれだけ差が出る?
今回のシミュレーションでは大学病院常勤の給与が500万円+非常勤バイトの給与が1,000万円と民間病院常勤の給与が1,500万で比較します。40歳未満が前提で、介護保険料が含まれていないとします。
また、配偶者控除・扶養控除・住宅ローン控除などの個別控除は加味していません。あくまで基本的な構造(年収・税・社会保険料)の比較に絞った、シンプルなモデルケースとしてご理解ください。
ケースA:大学病院常勤で500万円+非常勤バイトで1,000万円
- 総収入:1,500万円
- 社会保険料:約72万円(社会保険料は大学病院の給与に対して計算される)
- 課税所得:約1,185万円(1500万から給与所得控除195万、社会保険料72万、基礎控除48万を引いて)
- 所得税:約237万円
- 住民税:約118万円
- 手取り:約1,070万円
ケースB:民間病院常勤で1,500万円
- 総収入:1,500万円
- 社会保険料:約155万円(社会保険料は給与全額に対して計算される)
- 課税所得:約1,102万円(1500万から給与所得控除195万、社会保険料155万、基礎控除48万を引いて)
- 所得税:約211万円
- 住民税:約111万円
- 手取り:約1,023万円
大雑把な計算ですが両者で約50万円弱手取りが違ってきます。ちなみに40歳以上になると介護保険料が追加されます。そうなると、両者の手取りの差はさらに広がります。
※本記事では非常勤バイトによる社会保険料を「原則発生しない」ものとしてシンプルに試算していますが、勤務時間や年収条件によっては、非常勤でも社会保険加入義務が生じる場合があります。
あまり多くないとは思いますが、一つのバイト先で「週20時間以上勤務」という条件に該当する場合は、個別の確認が必要です。複数バイトを合わせて20時間超えても、原則それだけで社会保険加入義務にはなりません。
民間病院年収1,600万円でようやく同等の手取りに
大学+バイトで得られる手取り(約1,070万円)を、民間病院一本で実現しようとすると、年収はおよそ1,600万円程度が必要となります。
そのため、もともと「大学+非常勤バイト」で年収1,500万円だった方が、同じ年収1,500万円で民間病院に転職した場合、手取りが減ったと感じることがあるかもしれません。
大学病院の“給与が低い”ことは、実は節税的に有利?
給与が少ないということは、社会保険料(健康保険+厚生年金+介護保険など)の負担も少なくなるということ。
その結果、バイト収入との合算で、総収入が同じの場合、民間病院常勤だけより手取りが多くなるという現象が起きます。
この構造は、図らずも「給与部分を抑え、社会保険料負担を最小限にしつつ、収入の大部分は別枠で得る」という形になっており、結果的にマイクロ法人による節税スキーム(個人事業主が社会保険料を圧縮する目的で用いる手法)に非常に似た構造になっているように思います。
注意点:将来の年金は少なくなる可能性も
社会保険料が少ないということは、それだけ将来的に受け取る年金額も少なくなる可能性があるということです。
特に厚生年金の受給額は、「加入期間」と「報酬月額(≒社会保険の標準報酬)」で決まるため、大学病院のように給与が低いと、その分年金額も抑えられる傾向にあります。
短期的には手取りが増えても、長期的なライフプランや老後の生活設計を見据えると、“今”の手取りと“将来”の保障のバランスをどう取るかも重要なポイントとなります。
大学勤務しながらバイトで1000万円は稼げるのか?
このテーマに対して、読者の方から「大学病院勤務しながらそんなにバイトできるの?」という疑問が出るのはもっともです。
結論から言えば、バイト単価や勤務環境次第で「週3、4コマ以上」の非常勤勤務が可能であれば、年収1000万円の実現は十分可能です。
ただし、あくまで可能性であり、実現のしやすさは以下のような要因に左右されるかと思います:
- 大学での拘束時間(研究日があるか、週5勤務か)
- 医局のバイトに対する空気感や縛りの有無
- 診療科(手術系より外来中心の方が自由度高め。ただし手術バイトは単価良いことも)
- 医師としての年次(ベテランほど自由度やバイト枠が多め)
- 移動時間やバイト先の場所
- 大学医局が「割の良いバイト枠」をどれだけ持っているか
つまり、誰にとっても簡単に達成できる働き方ではないものの、条件さえ揃えば「バイトで1000万円」も十分に現実的なラインです。
まとめ:働き方次第で、手取りは大きく変わる
同じ年収でも、給与の構成によって手取りは数十万円単位で変わってきます。
今回のシミュレーションでは、大学+非常勤バイトと民間常勤の差は年間でおよそ50万円、月に換算すると4〜5万円となりました。
これは決して小さな違いではなく、日々の生活や将来の資産形成にも影響を与えるレベルです。
ご自身のキャリアや将来のビジョンに照らし合わせて、税金や社会保険料を味方につける働き方を意識するのも、一つの戦略といえるでしょう。
特に大学病院で働いている方にとっては、社会保険料が抑えられるという点を活かし、副業・非常勤バイトを戦略的に組み合わせるという考え方も有効です。
もちろん、大学病院勤務であっても十分な給与が得られるのであれば、それが最も理想的な形です。一方で、民間病院でしっかりとした常勤給与を得つつ、さらに非常勤バイトを重ねられる働き方が可能であれば、税負担は増えるものの、トータルで最も高収入を得やすいスタイルとも言えるでしょう。
大切なのは、自分の働き方や価値観に応じて、制度や仕組みを理解し、賢く選択していくことではないでしょうか。
※本記事のシミュレーションは概算に基づいており、実際の金額は勤務条件や控除内容により異なります。
コメント